NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第32回「新之助の義」で、一橋治済（生田斗真）が乞食に扮して民衆に紛れ込み、打ちこわしの中心に立った描写が展開された。今回の変装と行動は、これまで高みから策略を巡らせていた治済が初めて地上に降りて自ら手を下す局面であるとして注目された。

これまでは裏で糸を引いていた治済は、手先の丈右衛門（矢野聖人）らを利用し、源内（安田顕）に濡れ衣を着せたり、徳川家基（奥智哉）の急死に関する真相が描かれた書物を処分したりしてきた。旗本の佐野政言（矢本悠馬）に田沼意次（渡辺謙）が系図を捨てていたことを漏らし、嫡男の意知（宮沢氷魚）を暗殺するよう仕向けるなど、幕后での策謀も明らかになっている。

第30回「人まね歌麿」では賢丸（寺田心）を白河藩送りにした一方で松平定信（井上祐貴）に政に加わるよう文を出し、意次への復讐心を煽る動きも見せた。さらに治済は大崎（映美くらら）と共謀し、側室・知保の方（高梨臨）が作ったとされる「醍醐」を巡って将軍・徳川家治（眞島秀和）の容体が急変したことと結び付けられるなど、その影響力の大きさが示されている。

新之助（井之脇海）たちが打ちこわしを決意するきっかけとなった「米がなければ犬を食え」発言の噂の出どころともなり、治済の行動は物語の緊迫を一層高める結果となった。作中での「時が来た」という言葉は、治済の執着と先を見据えた思惑を際立たせている。