1
3
前回は「自己一致」、そしてその助けとなる「マインドフルネス」についてご紹介しました。
今回は、私たちが日常の中でついハマりやすい「思考のクセについて触れてみたいと思います。心理学では「スキーマ」や「自動思考」と呼ばれるものです。
スキーマとは、これまでの経験や環境から形づくられた“ものの見方の土台”のようなものです。
たとえば──
・ 「人に迷惑をかけてはいけない」
・ 「頼るのは弱いことだ」
・ 「成果を出せなければ価値がない」
これらは過去を生き抜くために役立った“心のレンズ”でもあります。
ただ、大人になった今の状況では、かえって自分を窮屈にしてしまうこともあります。
日常の中で何かが起きたときに、頭に一瞬で浮かぶ考えが“自動思考”です。
「また失敗した」「嫌われたかも」「私が悪いんだ」……。
これらは本来、私たちを守るための“脳の早送り反応”。
ただし、スキーマに影響されて偏っていることも多く、必ずしも事実そのものではありません。
心理学では「認知のゆがみ」とも呼ばれます。たとえば──
・ 白黒思考:「完璧じゃない=ダメ」
・ 先読みしすぎ:「きっと失敗するに違いない」
・ 心の読みすぎ:「あの人は私を嫌っているはず」
・ 過度の一般化:「1回ダメ=私はいつもダメ」
・ べき思考:「〜すべき」「〜してはいけない」が強すぎる
誰にでもある自然なクセです。大切なのは「気づくこと」から始めることです。
マインドフルネスの実践を続けていると、心の動きが次のように見えやすくなります。
出来事 → 自動思考 → 感情/身体の反応 → 行動
たとえば、友達からLINEの返信が来ないとき──
・ 自動思考:「嫌われたのかも」
・ 感情:不安、寂しさ
・ 行動:何度も通知を確認する
でも「ただ忙しいだけかもしれない」と別の見方ができれば、不安は少し和らぎます。
呼吸をひとつ置いて、反射的な反応を休める
・ 今、頭に浮かんでいる言葉は?(=自動思考)
・ その奥にある「心のレンズ(スキーマ)」は?
別の見方をひとつだけ足してみる
「返信がない=嫌われた」 → 「返信がない=相手が忙しいだけかもしれない」
傾聴の場は、こうした「思考のクセ」に気づくための小さな実験の場でもあります。
・ 傾聴散歩:歩きながら「今こんな考えが浮かんだ」と声に出してみる。沈黙でも大丈夫。
・ 傾聴茶話:安心できる場で「こう思ったけど、他の見方もあるかな」と一緒に探す。評価やアドバイスではなく、“別の視点を考える”共同作業です。
安心して言葉を出せる時間の中で、心のレンズを少しずつ磨いていけるかもしれません。
スキーマも自動思考も、もともとは私たちを守るために育ってきたものです。
ただ、「いまの私」に合わなくなったときには、気づいて見直すことが自己一致に近づく一歩になります。
もし「思考のクセで苦しくなるな」と感じるときには、どうぞ傾聴散歩や傾聴茶話へ。
話しても、沈黙でも大丈夫。安心できる場で、自分の心の声に耳を澄ませてみませんか。